小鹿のバンビ
小鹿のバンビは、生まれた時から鹿体液にまみれていました。
お母さんのお腹の中から、鹿体液まみれで出てきて、それはそれは気持ち悪がられました。
周りの鹿達は、皆脅え、身を寄せ合い、肩を震わせながら一様にこう言います。
「あんなに、鹿体液にまみれるなんて、、、不潔!」
その中に、母親が居たのは言うまでもありません。
幼く汚らしい小鹿のバンビは、勿論、ずっと鹿体液にまみれていました。
「空気がないと生きていけないように、僕はこのグチョグチョと気持ちの悪い、悪い夢でも見ているかのようなこの鹿体液がないと生きていけない。そんな気さえするよ。」
周りの鹿達は、バカで愚鈍な小鹿のバンビがそう言うのとは全く関係なく、
「あんなに、鹿体液にまみれることが出来るなんて、なんて、なんて不潔なの!」
と思うのです。
当然のように、たかしくんの母親もそう思っていました。
世界中の暴言の的となるべき小鹿のバンビは、川で水浴びをした後にもかかわらず、鹿体液にまみれていました。
「ふぅ、洗っても洗っても、この罵詈雑言を浴びせるべき忌々しく汚らわしい鹿体液は僕の体にまみれている。まさに、天国だよ!ははは。」
周りの鹿達は、そんな汚らしい、穢れた存在の頂点とも言うべき、忌むべき小鹿のバンビの発言とは、心の底から関係なく、
「あんなに鹿体液にまみれることが出来るのは、この鹿世界広しと言えども、あの子だけね!不潔鹿だわ!」
と、鹿井戸端会議をするのです。
その鹿井戸の周りには、例外なくたかしくんの母親も居るのです。
そんな、鹿体液にまみれた不潔鹿のババアの口臭のような不快感の小鹿のバンビは、或る日、出会うのです。
それは運命の出会いと言っても過言ではなかったのです。
「やあ、君かい?史上最も不潔で汚らしく、憎まれ、蔑まれ、罵詈雑言を吐かれるべき生物界の汚点、鹿体液にまみれた不潔鹿の小鹿のバンビってのは!!」
そう穏やかに言って、本当に汚らしそうに、卑しく汚らわしい、不快感の絶頂とも言うべき小鹿のバンビを見ていたのは、同じように不潔で、異臭を放ち、不快の楽園とでも言うべき体液にまみれた不潔の神に愛された存在、子馬の馬朗でした。
「君が、、、あの魔王に懇願してでも賤しむべき天性の、茫洋たる腐臭の王である馬体液をその身にまみらせた悪魔の使者、不快の海の創造者たる、不潔馬の子馬の馬朗!!」
そういった、究極の世界の創造者に魂を売り、卑しい、魔の力を得、感動のあまり糞尿を垂れ流すような二人のやり取りとは、ほんとうに、心底無関心でもって、周りの鹿達はこう思いました。
「あのような邪知暴虐の鹿体液にまみれるなんて、僥倖とも言うべき死をもって、償うべきだわ!それに、あの鼻を劈くような、奇怪な異臭の塊である馬体液も馬世界の全勢力でもって、不潔と罵ってやる必要があるわ!」
と、鹿井戸端会議に馬井戸端会議をするのです。
そこには、何の違和感もなく、たかしくんの母親も居ます。
すると、そこで、鹿世界と馬世界、双方を貫く、煌き、燦然とした光線が、一瞬のうちにあの、天下無双の不潔漢であり、東西南北に渡り世界を歩き回った不快の王である、小鹿のバンビと子馬の馬朗を覆いました。
その光が流麗な収束を終えると、あの、断崖絶壁から今まさに落とされようとしている状態でも助けてもらいたくない不潔で、不快で、悪魔的な不浄感である小鹿のバンビと子馬の馬朗が居ません。
しかし、そこには、全く彼らに無関心で、無関係であったはずのたかしくんの母親が立っていたのです。たかしくんの母親は、馬も鹿もシバキまわして、馬世界と鹿世界を統一して、治めたのです。
そのことを自慢げにたかしくんの母親はたかしくんに話しました。
そのことをたかし君が学校で言うと、皆たかしくんのことを、罵倒し始めました。
そして初めて「馬鹿」と言ったのが、これまでの話とは全く何のゆかりも、関与もしていない、心底無関心だった、たけしくんだったのです。